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2013.11.12
- サルカニ川の思い出 - (十勝シリーズ:第4話)



 昭和40年代までは私の育った美里別地域の河川は本当にきれいだった。サルカニ川と呼ばれていた小川は下っていくと美里別川に合流する。所によっては4~5メートルほどの川幅のところもあるが平均すると川幅2メートル程度の川であった。


◆恐怖の山火事
 秋口にこの川の上流でタバコの不始末から山火事が発生したことがあった。夜空に赤く映る山火事は私に火の恐ろしさを強烈に植え付けることになった。
 
信じられないことに消火作業でくすぶっているように見えた火が周りの枯草に延焼したと思ったら、人間の全力疾走のようなスピードで延焼していくのである。凄いスピードであった。必死で構築した防火帯も難なく超えて行く、後で分かったことだが山火事が恐ろしいのは、延焼面積が広いため山全体を包む熱が猛烈な上昇気流を作る。そうなると周りの気圧が低くなるから、火元へ向けて団扇で扇いだように新鮮な空気が送られる。こうなるともう手が付けられずいくら防火帯を作っても延焼を防ぐことは難しくなってしまうというのである。
 
それでも時が経ち一面を焼き尽くすと燃料源を失った火は沈静化に向かう。河原近くのヤチボウズの群生地は野ネズミの棲家だったろうに足で蹴ると炭化した草と灰が空中をパラパラと舞う。焼けただれた木々の多くは寿命が尽きるのだが、しばらくすると次代を担う新芽が根元から出てくる。中には表面に過酷な痕跡を残しながらも、なおも生き続ける木もあり自然界の逞しさに今更ながら感心させられる。
 
この山火事はサルカニ川の周りで発生したことから消火用の水には事欠かなかったのだが、延焼面積が広いためポンプ車では限界があった。活躍したのは川幅が狭いとは言え、水の防火帯があることで消火に当たる人間を守ることには大いに貢献したと思う。


◆一瞬の出来事
 この澄んだ小川は実に色々な魚が生息していた。小さな川のせいか釣人はほとんど入って来なかった。したがって手つかずに近い自然が残っており、浅瀬の小砂利の溜まりでは至る所で縄張り争いをしているカジカを見ることが出来た。
 
当時の田舎に住む子供がそうだったように、私も暇さえあれば川へ行っていた。サルカニ川にはカジカ、ドジョウ、ウグイ、ヤマメ、イワナ、イトウの幼魚がいた。川幅が狭いこともあり釣竿と魚を獲る網を持って行くのが常であった。
 ある時、川が左に大きく蛇行している深みに目をやると水中でゆっくりと動く黒い影が見えた。川の淵は背丈を超える草木が密集しており、釣竿ではポイントに針を落とすことが難しい場所であった。
 
今まで見たことも無い大きさの魚影に興奮しながら下流から網を構えて少しづつ深みを目指した。
 
その深みは長雨の氾濫で土手が深くえぐられていて奥は全く見えない。水深も背丈を越していたが、あの影を見てしまったらもう後戻りはできない。溺れそうになりながらも網はきっちりと垂直に立て土手がえぐられている所もクリアーした。私の胸あたりで枯草と流木が溜まっているところまで来て流木を思い切り蹴った。枝が水面でバシャバシャと音を立てた時に一気に網を引き揚げた。
 
そこには今まで見たことも無い大きなヤマメが網に入っていた。それまで大きくても30センチ程度しか知らなかったから40センチを超えるような大物は夢の世界の魚であった。うれしくて嬉しくて生かしたまま持ち帰ろうと思いバケツに水を入れて岸に上がった。
 
一瞬の事だった。ヤマメがバケツに収まり切れないので浅瀬で少し水を足そうと思いバケツを斜めにした時だった。・・・・ここで全てが水泡に帰した。
 
今まで静かにしていたヤマメが躊躇することなく全身の力を使って一気に身をよじった。しばらく何がどうなったのか理解できずにいたが、改めて空のバケツを覗いて理解した。それから必死になって何度も網を入れたが後の祭りであった。
 逃がした魚は大きいというが・・・悔しかったなぁ  



 こんな思い出のあるサルカニ川も昭和50年代には河川の氾濫による農地保護を目的にコンクリートで護岸工事がされた。魚道もなく流れを良くするために川底をさらう工法は川を瞬く間に崩壊した。
 大雨が降る毎に川は茶色く濁り、落差のある所では泡が発生した。あれほど綺麗な川だったサルカニ川は水草も魚も水生昆虫も棲まない死の川と化してしまった。
 自分が子供のころ遊んだ小川が無くなるのは寂しい。何より今の子供たちに川遊びを体験させてあげられないのが悲しい。

残したかったなぁ澄んだサルカニ川



                                ポストライフ 常務理事 佐々木 貢





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